裁判の概要と情報拡散及び寄付のお願い

伊東 裕晃(税理士・大阪府豊中市在住)

 みなさんは、所得税の「法定申告期限」というと、いつだと思いますか?確定申告の時期だと、タレントやスポーツ選手がスマホでe-Taxを使って申告するところを国税当局が報道各社に取材させるなど大々的に宣伝しているので、その所得があった年の翌年3月15日(官公庁の休日と重なったら後ろへずれます)と、大半の人が思っていらっしゃることと思います。

 申告納税方式による国の税金には「更正の請求」という手続きがあります。

提出した申告書に誤りがあって税金を多く納め過ぎたとか、還付金の額が少なすぎたという場合に、税務署長に対し税金を還付してもらうための請求をする手続きです。

この手続きをできる期限が国税通則法23条1項では「当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年」となっています。

 この期限の解釈に関して、国税庁の所得税基本通達122-1《還付等を受けるための申告書に係る更正の請求》というのがあり、以下のように書かれています。

“法第122条に規定する申告書についても、通則法第23条《更正の請求》の規定の適用があることに留意する。この場合において、同条第1項に規定する「当該申告書に係る国税の法定申告期限」とあるのは、「当該申告書を提出した日」と読み替えるものとする”

 これにより、当初提出した申告書が「還付を受けるための申告書」に該当し、3月15日よりも早く提出した者の更正の請求の期限を早く到来する処理をして、提出日から5年を経過した日以降にされた更正の請求を3月15日より前であっても門前払いにするという、法律に書いていない運用を税務署がしているのです。

今回の事件は下記のBさんのようなケースです。

 Aさん 八百屋さん(個人事業) 2019年(R1)年間所得 事業所得のみ500万円

 Bさん C社に勤める会社員  2019年(R1)年間所得 給与所得のみ500万円 年末調整済 他の所得が20万円以下のため申告義務なし

二人とも医療費が20万円あり、2020年(R2)3月10日に申告。5年後の2025年(R7)3月になって、2019(R1)年に申告していなかった入院費などの医療費の領収書がさらに20万円分が出てきて、2025年3月15日に「更正の請求」

→Aは○ 個人事業で一定の所得を有しているので申告義務があり、所得税の法定申告期限が3月15日であるため、更正の請求も5年後の3月15日まですることができる。

→Bは×(門前払い) 年末調整をしている場合、還付を受けるための申告には期限が定められていないため、2020年3月10日に出した還付を受けるための申告書に関する更正の請求は5年後の2025年3月10日までしかすることができない。

当初の申告書を3月15日より遅く提出した者の期限を後ろに延ばすのはかまいませんが、早く提出した者の期限を行政通達によって法律の規定よりも早く到来させるということは、憲法84条に規定する租税法律主義に反しており、引いてはその大本(おおもと)にある憲法29条に定められた国民の財産権を侵害し、さらには、実質的に法律の条文を改ざんする行為であり、日本国憲法41条において唯一の立法機関と規定された国会の権能を侵害するものです。

また、「通達は(中略)行政組織内部における命令にすぎないから,これらのものがその通達に拘束されることはあつても,一般の国民は直接これに拘束されるものではない」とした最高裁昭和43年12月24日判例にも違反しています。

加えて、一定の所得があれば申告義務がある自営業者と、本人の意思にかかわらず源泉徴収で所得税を天引きされて国から申告義務を免除されている給与所得者や年金所得者で一定の人々との間に、更正の請求ができる期限について不公平が生じるという憲法14条に定められた法の下の平等にも反しています。

国税不服審判所はともかく、まさか裁判所が請求を棄却するようなことはないと思い、請求金額も少ないことから、審査請求から地裁、高裁まで代理人を立てず闘ってきました。

 しかし、裁判所も国の代理人も、まともな答弁や判決理由を書かず、いずれも請求が棄却されました。

このような判決が確定したのでは、日本国憲法下の憲政史上、将来に禍根を残すと思い、神戸の弁護士今西雄介先生に代理人をお願いして、上告いたしました。今西先生は、川崎重工過労自殺訴訟の弁護団に加わっていらっしゃる、心強い味方です。ただ、本人訴訟だったこれまでと違い、それなりの費用が必要になります。

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